健康睡眠プロジェクト

桑田真澄さん × 枝川義邦先生 対 談脳の働き

第2回

元プロ野球選手の桑田真澄さんと脳神経科学を専門とする早稲田大学の枝川義邦教授との対談をお届けする同企画。前回は、「トップアスリートの睡眠生活」をテーマに、桑田さんの現役時代と現在の睡眠の変化などについて対談をしていただきました。さて、第二回テーマは「脳の働き」です。

睡眠をとらないと脳の働きは
悪くなる?

続きを読む

桑田:脳の働きについては、実は、昔から興味があったんです。

枝川:何歳くらいから興味を持たれていたんですか?

桑田:23歳前後だったかと思います。特に印象的だったのが西田文郎さんの著書でタイトルは忘れましたが「ブレイントレーニング」について書かれていた本です。右脳をいかに使うかといった内容でした。

枝川:実際にどんなことを取り入れましたか?

桑田:考え方ですね。

枝川:なるほど。脳の中には当然ですが、生まれてから寿命がくるまで一回も休まない場所があります。呼吸をしたり、体温をコントロールするといった本能的な部分は、休んでしまうと命に関わります。一方で、休まなければいけない場所もあります。集中力や注意力などに関わる脳の場所というのは、休みを取らないと次の日に充分にパフォーマンスが発揮できなくなったりします。

桑田:脳の働きという面からしても睡眠は大事というわけですね。

枝川:そもそも身体自体、生きて活動しているといろいろなダメージを受けます。紫外線を受けたり、いろいろなものを食べたり飲んだり、空気中にもいろいろなものが含まれていますし。外からダメージを受ける要素って当然あるんです。

枝川:さらに、自分の細胞が出しているもので自らダメージを受けることもあります。老廃物が上手く出ていかなくて蓄積するとそれでダメージを受けてしまうということもあって、そういったものを排除する、排せつすることも睡眠時間に行われているんです。睡眠時間が短いと、脳の中に老廃物がたまってしまい、それが異常な塊になるとアルツハイマー病の原因になるともいわれています。これも睡眠時間に排せつしていくものなので、短い人はアルツハイマー病になりやすいのではないかと考えられているのです。

桑田:それは怖いですね。

枝川:ちなみに、午前中に脳をすごく働かせた人は、お昼休みにちょっと昼寝するぐらいの方がいいんですよ。それが難しい人は、5分ぐらい目をつぶって呼吸を整えてやるといいと思います。

桑田:僕も昼寝することはあります。経験上、長く寝すぎるとだるくなってしまうので、15分から30分くらいがちょうど良いと思います。

「脳トレ」で脳の働きをUP!

続きを読む

枝川:一般的に「脳トレ」というと、記憶力を鍛えて物忘れをしなくするようなイメージが強いかと思いますが、ひらめきを得るための脳トレもありまして、アイディアを出し続けるというのも一つの例ですね。謎解きみたいなものをやって鍛えていくというのも脳トレになります。

桑田:誰でも気軽にできそうですね!

枝川:結局、脳の中ではよく使っている場所は働きがどんどんスムーズになっていくし、使わない場所ではどんどん鈍くなっていくんです。それは身体を動かすところも、考えたりするところも、記憶をするところも同じです。

桑田:運動能力の向上を目的とする脳トレもあるんでしょうか?

枝川:技能を学習するときには「小脳」という場所が関わっていますので、そこがうまく働くように、正しい動きを何回も何回も行うのがいいですね。勉強しているのと一緒で、最初は本当にお手本通りにやるのがいいんです。

アスリートは頭が良いのか?

続きを読む

枝川:よく話題に挙がるのは、「アスリートは頭がいいのか」というテーマがあります。かつては、「筋トレばかりしていると脳みそも筋肉になっちゃうんじゃないか」という冗談を言う人もいましたが、最近の理解はむしろ逆で、筋トレや有酸素運動をして身体のトレーニングをしている人は実は記憶力も鍛えていると考えられてきています。

桑田:そうなんですね!

枝川:21世紀になる直前のことですが、脳の中で新しい神経細胞が生まれる場所が見つかったのです。とくに、記憶をする場所に情報が入る入口のところで、何歳になっても新しい神経細胞が生まれる場所があることがわかりました。これが記憶に関係した現象だということで、増やす秘訣も調べられています。ひとつは、記憶をし続けていくこと。記憶をしようとしてこの部分に刺激を与えていくと新しい神経細胞が増えていくと考えられています。あとは運動です。筋トレや有酸素運動がよいといわれます。筋トレは、筋肉が一度壊れて超回復することで太くなりますけど、壊れた時に中から出てくる物質が、脳に情報を送ると、新しい神経細胞が生まれやすくなります。有酸素運動もそうです。ですから、身体を鍛えるとことが実は脳のトレーニングにもなるということなんです。

桑田:身体を鍛えることが実は脳のトレーニングにもなっていたんですね!

枝川:あれだけ滑らかに身体を動かすっていうのもそうですし、アスリートって先を読んだり、何かに対して瞬時に対応できるわけですから、脳の情報処理が速いんですよね。お勉強して理屈をこねるのがうまいとか、数字に強いとか言葉が流暢だというのも知能のひとつですけど、身体をどううまく動かしていくかという感覚も知能として非常に大事。流れるように上手く情報処理ができるという意味では、むしろ一般の方よりも優れているのではないでしょうか。

ポジティブな発言をすると
脳は鍛えられる!?

続きを読む

桑田:僕はマウンドに立つといつも不安と恐怖でいっぱいになるんですよ。

枝川:意外ですね。

桑田:そこで、ネガティブな感情をポジティブなものに変えていく作業を意識的にしていました。例えば、マウンド上で「俺はできるんだ」と自分自身に語りかけたり、打者を打ち取るための配球を言葉に出したりしていました。近い対象物を凝視して集中力を高めることもありました。プラス思考やイメージトレーニングの方法については、20歳の頃からいろいろな本を読みましたね。

枝川:20歳で!

桑田:プロ野球の投手は自信満々に見えるでしょうが、実は繊細で、マウンド上では恐怖心で押しつぶされそうになっているんです。僕もネガティブな思考から入るタイプなんですが、不安や恐怖を打ち消すには考え方しだいだと気づきました。自分自身の思考は自分でコントロールしないと、マウンド上では他の誰も助けてくれませんから。

枝川:脳の働かせ方という意味でもすごく理にかなったことを仰ってます。不安感とか、激しい感情、例えば打たれてカッとなっちゃうとか。頭が真っ白になることもあるとは思うんですけど、それをかき消すにはやはり言葉にすることが良いですね。また、このバッターを打ち取ったら次は何をしようかといった段取りを考えると、そのときに脳の中で働く部分が激しい感情や不安感を司るところにブレーキをかけるんです。

桑田:じゃあ僕がやっていたことは理にかなっていたわけですね?

枝川:すごく良かったと思います!

——— 桑田さん、枝川先生、ありがとうございました。20代前半から脳の働きについて興味をもたれ、しかも脳に良いことを自然と実践されていた桑田さん、さらには、ポジティブな言葉を発することでネガティブを打ち消していたとのことです。さて、次回は「意識の変化」をテーマにお届けします。

PROFILE桑田 真澄

くわたますみ/1968年生まれ。野球解説者、野球評論家。PL学園高校で5季連続甲子園大会に出場し、通算20勝しエースとして活躍する。1985年、読売巨人軍にドラフト1位指名で入団。プロ入り2年目に2桁勝利し沢村賞を獲得、94年には年間MVPに選ばれた。1995年に右肘靭帯断裂の重傷を負い一時戦線離脱をするが、手術を受けて1997年に復帰。2002年最優秀防御率。2006年にはメジャーリーグへ挑戦を表明し、ピッツバーグ・パイレーツに入団。2007年6月にメジャー初登板。2008年に現役引退。2010年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。現在は東京大学大学院総合文化研究科特任研究員として研究を続けている。野球解説、評論、執筆活動、講演活動も行っている。

PROFILE枝川 義邦

えだがわよしくに/1969年生まれ。早稲田大学研究戦略センター教授(早大ビジネススクール兼担講師)。1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。2007年早稲田大学ビジネススクール修了、MBA(経営学修士)。同年早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)の初代認定を受ける。脳の神経ネットワークから人間の行動まで、マルチレベルな視点による研究を進めており、経営と脳科学のクロストークを基盤とした執筆や講演も行っている。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『記憶のスイッチ、はいってますか』(技術評論社)、『タイプが分かればうまくいく!コミュニケーションスキル』(共著、総合法令出版)などがある。

次回

桑田真澄さん×枝川義邦先生 意識の変化

対談 第3回

410日(火)に更新!

脳活すいみんTOPICS桑田真澄さん×枝川義邦先生対談