健康睡眠プロジェクト

桑田真澄さん × 枝川義邦先生 対 談良質な睡眠

第4回

元プロ野球選手の桑田真澄さんと脳神経科学を専門とする早稲田大学の枝川義邦教授との対談をお届けする同企画。前回は「意識の変化」をテーマに、「一流になるためには1万時間の努力が必要」という話や「子どもたちに何を意識させるか」などについて対談していただきました。さて、第四回(最終回)テーマは「良質な睡眠」です。

早く眠りにつくのも良くない?

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桑田:僕は毎日、6時間睡眠をとっているんですけど、最近はどんなに寝ても疲れがとれない感じなんです。現役時代はどんなに疲れていても、次の日に起きたらパッと目が覚めてすごく元気だったんです。でも、最近は例え8時間寝ても、起きた時の爽快感がないんですよね。

枝川:なるほど。睡眠不足には、特に「睡眠負債」という状態がありますけど、それを抱えている人はベッドに入るともういきなりグーっと寝ちゃうんです。自然な睡眠はベッドに入ってから10分程度はまどろんでいるもので、とろとろ~っとしてから、すとんと深い睡眠に入るものですが、睡眠負債を大きく抱えていると、ベッドに入るや否やグーグー寝ちゃうっていう。早すぎるのも実は良くないんです。

桑田:そうなんですね。

枝川:ええ、すぐに眠れると健康的だと思われる方も多いんですけど、早すぎるっていうのは実は良くない可能性があります。やはり睡眠も、まずはアイドリングがあって、眠ったら朝まで起きないっていうのが理想的です。桑田さんはおそらく決まった起床時刻があったので、毎日決まった睡眠時間で過ごされたようですけど、それをずーっと続けて自然と目が覚めていたということは、当時の桑田さんに必要な睡眠時間はその8時間だったということですよね。もちろん必要な睡眠時間は人それぞれ違いますし、状況によっても変わります。そして、睡眠は時間も重要ですが、質も大切です。当時は、長く続けていた睡眠習慣でパフォーマンスも良かったということは、そのどちらも充分だったということでしょう。

一般的な理想の睡眠とは?

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枝川:睡眠は毎日決まった時間帯でとるのが良いとされますが、時計でいう何時から何時という「時刻」が大切というよりは、眠ってから何時間という「時間」が大切とされます。また、私たちの脳や身体は一日24時間を決まったリズムで生きていますから、時刻の感覚は重要ではあるのですが、皆が一律に「何時から何時まで」という同じ時刻から眠ることが必要ということではなくて、自分の理想的なリズムの中で睡眠もとっていただくのがよいと考えられています。

桑田:じゃあ夜中の2時から寝始めてもいいわけですね?

枝川:そう考えられています。毎日決まったリズムを刻めていれば夜中から眠り始めても問題ないとなりますが、一方で、睡眠環境が整っていないことで質の高い睡眠が取れないことは考えられます。例えば夜勤の方でも、夜働いて朝帰ってから眠ることを毎日続けていれば、それがきちんとしたリズムになるわけですが、夜勤明けの場合では、朝から昼まで寝ていようと家でカーテンを閉めても、やっぱり部屋が明るかったりするので、それが原因でよく眠れないということはあり得ます。すると、これは睡眠の時間帯が悪いというよりは、睡眠環境という他の因子が原因で睡眠の質が下がってしまうという話になります。理想的には、桑田さんのように、睡眠環境も整えて、何時から何時と毎日決まった時間で眠るのが良いですね。

眠っている間にも脳は
情報処理をする?

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枝川:基本的に睡眠中は、その前の日とか直前に行った体験を情報として編集して記憶する時間です。

桑田:頭の中が整理されるんですね!

枝川:自分が持っている記憶情報と新しく入ってきた情報を照らし合わせて、記憶すべきかどうかを脳が判断して記憶に刻んでいきます。嫌な記憶を忘れていくという心理効果は当然あるので、なかったことにして違うところを編集して自分の記憶としてつなげていくということもあるでしょう。しかし、寝る直前に体験したり考えたことは記憶に残りやすいんです。そういうことをせず、寝る前は気分良く穏やかに過ごしているような人は、睡眠中に編集された記憶情報もよいストーリーになっているものです。

桑田:それは面白いですね!逆にいうと、あまり眠らない人はせっかくトレーニングしても成果が上がらないんですか?

枝川:そうですね。それも結局記憶の編集の考え方で、無駄な動きを全部排除して、合理的な動きを脳に刻んでいくのが睡眠中にやっていることですから。

良質な睡眠は朝に秘訣がある!?

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枝川:睡眠の質を高めるには、勝負は朝から始まっていると考えています。朝にどのように過ごしたかが、実は夜の睡眠に大きく影響しています。朝起きたら、まず太陽の光を浴びる。

桑田:日光浴ですか?

枝川:はい、これはすごく重要なことで、脳の中で睡眠を誘発するホルモンを出なくすると同時に夜にそのホルモンが分泌するためのタイマーを入れるように作用します。つまり、朝起きていつまでもまどろんでいないで、起きたらパッと陽を浴びることで、目もパッと覚める。それでそのホルモン分泌のタイマーも入って、14時間から16時間後にまた分泌が始まることで眠くなっていきます。それと、昼間の活動量を上げるのも大切です。

桑田:昼までずっと寝ているのは良くないわけですね。

枝川:昼間と夜間のメリハリをつけるのが、睡眠の質を高くするコツになるんです。

寝る前にはぬるま湯に
入るのが良い?

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枝川:睡眠の質は、体の中心部分の体温、つまり深部体温の影響を強く受けています。ですから、睡眠の質を高めるためには、いかにこれを下げるかが秘訣なんです。身体って上手くできていて、深部体温が上がると、上がったものは下げるように働くんですね。そのために、眠る1〜2時間前には、ぬるめのお風呂にゆっくりと入るのが良いでしょう。

桑田:熱いお風呂は良くないんですか?

枝川:熱いお湯に浸かると、皮膚が汗を出して身体の表面部分だけで熱を回しちゃうので、身体の中心までは温まりにくくなります。

桑田:適温というのはありますか?

枝川:体温よりも少し高いくらいです。40度よりちょっと低いぐらい。でも30分でも1時間でも長く入っていると、結構汗かきますよ。本でも読みながら気長にお風呂の中で過ごされるといいですね。

桑田:僕は、現役時代はシャワーだけで済ませるタイプだったのですが、最近は疲れを取るためにも湯船に入るよう心がけています。ぬるいのがいいんですね。試してみます!

睡眠不足になったら?

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桑田:僕は、睡眠不足になったら、翌日は早く寝ることでバランスを取るようにしています。例えば、今日4時間しか眠れなかったら、僕の場合は6時間睡眠だから、翌日は8時間寝て2日間合計で12時間睡眠を確保しようという発想です。

枝川:すぐにリカバーするというのは大事でして、1週間続いたから1週間分を返せばいいというよりは、1日1日、こまめに早めに返していくというのがいいと思います。

桑田:「寝だめ」っていう言葉がありますが、実際にはできるものなんですか?

枝川:できないですね。睡眠時間の特徴は、貯金は出来ないけど、借金はできちゃうことです。だから週末に寝貯めしたっていう印象があると、こんだけ貯金したから、平日はそれをきり崩していけばダメージを受けないだろうと考えてしまいますけど、そういう発想は成り立たないんです。むしろ逆で、ダメージを受けたのを週末に返して回復させる、というイメージですね。

——— 桑田さん、枝川先生、ありがとうございました! 自分の理想的なリズムの中で睡眠をとるだけではなく、睡眠環境も整えることが大事であるとのこと。また、寝る前にはぬるま湯に浸かり、朝起きたら日光を浴びることで、より良質な睡眠ができるそうですね。さらに、「寝だめ」はできないとのことで、寝不足になってしまったらすぐにリカバリーすることが大事と話していました。質の高い睡眠をとりたい人はこれらのことを実践してみてはいかがでしょうか。

さて、「脳活すいみん」特別企画「桑田真澄さん×枝川義邦先生の対談」はこれで最終回となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

PROFILE桑田 真澄

くわたますみ/1968年生まれ。野球解説者、野球評論家。PL学園高校で5季連続甲子園大会に出場し、通算20勝しエースとして活躍する。1985年、読売巨人軍にドラフト1位指名で入団。プロ入り2年目に2桁勝利し沢村賞を獲得、94年には年間MVPに選ばれた。1995年に右肘靭帯断裂の重傷を負い一時戦線離脱をするが、手術を受けて1997年に復帰。2002年最優秀防御率。2006年にはメジャーリーグへ挑戦を表明し、ピッツバーグ・パイレーツに入団。2007年6月にメジャー初登板。2008年に現役引退。2010年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。現在は東京大学大学院総合文化研究科特任研究員として研究を続けている。野球解説、評論、執筆活動、講演活動も行っている。

PROFILE枝川 義邦

えだがわよしくに/1969年生まれ。早稲田大学研究戦略センター教授(早大ビジネススクール兼担講師)。1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。2007年早稲田大学ビジネススクール修了、MBA(経営学修士)。同年早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)の初代認定を受ける。脳の神経ネットワークから人間の行動まで、マルチレベルな視点による研究を進めており、経営と脳科学のクロストークを基盤とした執筆や講演も行っている。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『記憶のスイッチ、はいってますか』(技術評論社)、『タイプが分かればうまくいく!コミュニケーションスキル』(共著、総合法令出版)などがある。

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